2018/08/09 09:28

こんにちは。
幻想古書店Once Upon a Timeの水波流です。
今回ご紹介するのは、私が小学生の頃、初めて意識的に読んだ日本人作家によるハイファンタジー小説です。
(これが面白すぎた当時の私は同級生に勧めまくり、逆にロードス島戦記を貸してもらうことになったのですがそれはまた別のお話)

◆飛火野 耀著『イース 失われた王国』

旅の途中、とある島に漂着した若者アドル。
その島は人間を超越した「魔」と呼ばれる存在によって全ての文字を奪われていた。
古代王国の遺産である6冊の本。魔法の金属クレリア。
森と同化して生きる隠者ロダから、古代文字を学ぶことになったアドルは、文字の意味を知るということは世界の意味を知ることだと教わる。
「世界は読まれるのを待っている一冊の書物である」

タイトルでピンと来た方も多いと思いますが、日本ファルコムの代表作アクションRPG、イースの小説版です。とは言え、これはいわゆる「原作モノ」ではありません。タイトルと固有名詞だけ借りた、まったくのオリジナルストーリーです。(むしろ作者はゲームはやってないんじゃないだろうかと思ったり)

この作品の醍醐味は、異形の怪物との心理戦です。
ほぼ全ての戦いがゲームのようなアクションではなく、主人公の内面的な弱みにつけ込んでくる怪物との自問自答です。
一人で探索を続ける主人公の心理描写や孤独。
善とはなにか、悪とはなにか。そして光とは、闇とは。
ゲーム小説という範囲では括れない名作と私は思っています。

なお作者の飛火野耀氏は、その後「もうひとつの夏へ」「UFOと猫とゲームの規則」「神様が降りてくる夏」というオリジナル小説を3作発表しましたが、1996年以降、ぱったりと消息を絶ってしまいました。
しかしその独特な文体と奇妙な読後感は、いまでもコアなファンが居続ける作家です。
いつか復活されないものかなぁと思いつつ……。

◆書誌情報

発行:角川文庫(1988/3/1)